2017年5月22日月曜日

オーストラリアで行われたメルボルン技術によるリバーサル手術

リバーサル手術は、肋間神経を使ったものだけでなく、それ以外の手法も研究されているみたいです。メルボルン技術という自家静脈神経導管(AVNC:autogenous venous nerve conduit)を移植するケースレポートを見つけました。
この資料の利用の自由が確認できたので、その訳を一部載せたいと思います。
なお、訳に間違いがあったらごめんなさい。

サイト: InTechOpen
記事タイトル: Thoracic sympathetic nerve reconstruction for compensatory hyperhidrosis: the Melbourne technique

目次
要約(Abstract)
背景(Background)
目的(Objective)
方法(Methods)
結果(Results)
結論(Conclusions)
紹介(Introduction)
メルボルン技術(The Melbourne technique)
ケース1(Case 1)
ケース2(Case 2)
討論(Discussion)
結論(Conclusions)


代償性発汗のための胸部交感神経の再建:メルボルン法

要約(Abstract)

・背景(Background)

代償性発汗(CH)は、原発性多汗症を管理する上で行われている胸腔鏡下交感神経切除術(ETS)の潜在的な合併症となっています。代償性発汗は、心理社会的に大きな影響を与えますが、治療の選択肢が少ない永続的な状態と考えられています。交感神経経路を再構成することを目的としたさまざまなリバーサル技術が開発されていますが、結果は一貫していません。

・目的(Objective)

ETSの後3~5カ月以内に発症した重度の代償性発汗を治療するために開発された新しい技術であるメルボルン技術によるリバーサル手術の2つのケースレポートを示します。2人の患者は8年にわたりフォローアップを行いました。

・方法(Methods)

メルボルン技術では、以前に神経遮断された胸部の交感神経連鎖を処置するのに、内視鏡でのアプローチを行います。これら2つのケースにおいて、右側だけの処置を行いました。腹腔内の神経移植片を使うのではなく、自家静脈(autogenous vein)の移植片を手術時に採取し、神経切除された二次神経欠損部を橋渡しする神経導管として使用しました。多汗症の有効性が確認されているDLQI(皮膚科学で使われるライフ・クオリティ・インデックス)とQOL(Quality of Life)のアンケートを使用して、長期の効果を測定しました。

・結果(Results)

どちらのケースでも、患者はQoLスコアにおいて術後改善を報告しました。しかし、改善は、1方のケースの方が他方のケースと比較して顕著でした。即時においても長期においても、有意な術後合併症はありませんでした。

・結論(Conclusions)

メルボルン技術は、代償性発汗のために行われている他のリバーサル手術で用いられる腹腔内の神経移植片や神経伝達物質の代替物として、有望です。


紹介(Introduction)

多汗症は、環境条件や体温調節の必要性といった変化に適応するために必要とされる量を超え、不釣り合いに増加した汗が生成されることを特徴とする症状です。男性においても女性においても一般人口の2.9%に等しく影響を及ぼしています。多汗症は良性疾患ですが、しばしば患者に恥ずかしさといった深刻な心理状態を引き起こします。

多汗症は全身で起きることもあり得るし、局所的に起きることもあり得ます。全身多汗症は身体全体に影響を及ぼし、通常は本来二次的な現象になります。局所多汗症(すなわち原発性多汗症)は、通常特発性で、特定の身体部位(最も一般的にはわきの下、手のひら、足の裏、顔)に現れます。環境的な刺激や感情的な刺激に応答する交感神経系の過活動が原発性多汗症の主な原因と考えられており、これ故に非外科的治療で処置できない重症な場合には交感神経切除術の根拠となっています。

胸腔鏡下交感神経切除術(ETS)は、1950年代から進化した原発性多汗症の最も確実な外科的治療法です。ETSは胸部交感神経連鎖を電気焼灼したりクリッピングしたりすることを含んでいて、汗腺へ信号を伝達する神経路や神経節を遮断することを意図しています。ETSの有効性と利点は十分にドキュメント化されています。高い成功率と低い羅漢率となっていますが、しばしば著しい長期の合併症、すなわち代償性発汗(CH)に関連付けられます。それは術後6カ月になって発生し、身体の他の領域とりわけ胴体と下肢に過剰な汗をかきます。

ETSによって起きる代償性発汗の実際の発生率を算出することは、定義や身体変化の度合いを標準化できていないために達成が困難となっています。ライ(Lai)とそのチームは代償性発汗の重症度の尺度を導入しましたが、標準化された客観的な測定機器なしでは評価は広く主観的となり、その適用性は疑わしい。それにもかかわらず、術後の代償性発汗の発生率は30%から100%の範囲であり、重度の代償性発汗では43%の高さになっています。

代償性発汗の正確なメカニズムは不明ですが、次のようなことが含まれる理論がいくつかあります:蒸発によって熱を下げる身体の有効エリアが相対的に減少することにより損傷を受けていない汗腺機能を持つエリアが過剰に汗を生成する、ということや、ETS後に視床下部の熱制御機能の感受性が増え反射反応が変化したこと、などです。

代償性発汗の治療は困難です。実際問題として、ETSのさまざまな外科技術や手法は代償性発汗の発生を最小限に抑えるために絶えず改善しているのですが、現在まで確実な治癒方法は存在していません。それ故に、代償性発汗のためのリバーサル手術はいまだ有望な結果を得ようとさまざま試みられています。

今日まで、胸部交感神経を再建するための神経導管(nerve conduit)として自家静脈移植片(autogenous vein graft)を用いた代償性発汗のためのリバーサル手術の報告はありません。したがって、私たちはこの今までにない技術(それは2人の患者に実施しました)および彼らの長期結果を提示します。


メルボルン技術(The Melbourne technique)

オーストラリアの外科医がメルボルンで開発した新しい外科技術が2人の患者に適用されました。この技法では、腕を外に向けた半座位(ファウラー位を修正した姿勢)に患者を配置する必要があります。この技法は、全身麻酔を行い、二重の内腔気管内チューブを使用しました。いずれの患者においても、右側のみ実施しました。前回手術痕を超え、前腋窩線、第5肋間腔の高さにある中鎖骨線、および第3肋間腔の高さにある中腋窩線に沿って、3つのポート(1mm×5mm、2mm×3.5mm)が取り付けられました。CO2で気胸を制御し、3.3mm 30°の望遠鏡(KARL STORZ、GmbH&Co、KG、Tuttlingen、Germany)で胸膜腔を検査しました。フック・ジアテルミーとはさみを注意深く使うことによって、胸膜癒着と胸膜に「窓」を作りました。T2交感神経幹を第2肋骨のネック部と第3肋骨を超えた末端セグメント部に特定しました。いずれの症例でも、前回手術位置にチタンクリップはありませんでした、もしあったらそれらは除去したでしょう。ケース1では、T2交感神経幹の近位端および遠位端のそれぞれに形成された神経腫を切除し、およそ1cmの欠損を残しました(図1)。ケース2では、T2-3交感神経幹神経腫を注意深く神経刺激を行って切除し、1cmの欠損を生じました。

図1
(A)手術部位
(B)神経腫を取り除いた後の右側第2胸部交感神経連鎖の近位端と遠位端のイラスト
a:右側第2肋骨、b:近位部、c:遠位部、d:内視鏡吸気管
どちらのケースにおいても、表在静脈(superficial vein)の断片(長さ5cm)を左前腕から切り取りました。その静脈をヘパリン処理した生理食塩水で洗い流し、その方向を逆転させました。切り取った静脈は欠損の長さにリサイズし、静脈両端は神経幹の(近位端と遠位端の)両端に適合するように切り開かれました。端と端の接合はフィブリンシーラント(ISSEEL™、Baxter International Inc.、USA)層で安全に位置を固定しました。(図2、図3、図4)
図2
(A)手術部位
(B)右第2胸部交感神経近位端への自家静脈神経導管(AVNC)接合のイラスト
a:右側第2肋骨、b:AVNCの広げられた終端、c:右側第2胸部交感神経節、d:フィブリンシーラント
図3
(A)手術部位
(B)右第2胸部交感神経遠位端(フィブリンシーラント付き)への自家静脈神経導管(AVNC)接合のイラスト
a:右側第2肋骨、b:AVNCの広げられた終端、c:右側第3胸部交感神経節、d:フィブリンシーラント
図4
(A)手術部位
(B)自家静脈神経導管(AVNC)と胸部交感神経との接合のクローズアップのイラスト
a:右側第2肋骨、b:AVNCの広げられた終端、c:右側第2胸部交感神経節、d:フィブリンシーラント
最後に、肺を再拡張し、胸腔内カテーテルを胸部X線で気胸の完全な解消が確認されるまで24時間その場に残しました。手術の平均時間は120分でした。


ケース1(Case 1)

右利きの58歳の白人男性である患者Aは、QOLに影響を及ぼす重度の原発性顔面多汗症および赤面症のため、2002年12月に左右のT2およびT3交感神経幹をクリップするETSを受けました。彼は顔面発汗と顔面紅潮の著しい減少に気づき、多汗症疾患重症度スケール(HDSS)のスコアで初期値4から1を達成しました。しかし、ETSの5カ月後に、彼は胴体およびわきの下の代償性発汗を発症しました。ETSの6カ月後と24カ月後に、T2クリップとT3クリップをそれぞれ除去しました。チタンクリップを除去しDitropan® (Oxybutynin chloride)を試したにもかかわらず、彼は背中とわきの下に過度の発汗を経験し続けました。

ETSのおよそ5年後に、彼はメルボルン技術によるリバーサル手術を受けました。瘢痕化した右胸部交感神経鎖の1cmのセグメントを切除しましたが、それは周囲の線維性基質を持ち合わせる神経としてのちに報告されました。

リバーサル手術の後6カ月以内に、彼は口の周りの汗が戻ったことに気づき、それは許容できると報告しました。同時に、彼は背中とわきの下の発汗において軽度から中程度の減少を観察し、こちらも許容レベルであると報告しました。

リバーサル手術の5年後において、彼は背中に軽度から中程度の発汗を経験し続けましたが、リバーサル手術後の程度はそれほど悪性というわけではなくなっていました。DLQI(皮膚科学で使われるライフ・クオリティ・インデックス)スコアはリバーサル手術前の12から6に改善され(すなわち患者の生活に対する中程度の効果)、QOLアンケートはリバーサル手術後5年で若干の改善が認められました。


ケース2(Case 2)

右利きの49歳の白人男性である患者Bは、QoLに影響を及ぼす重度の原発性顔面多汗症のため、2001年に両側ETSを受けました。両側のT2交感神経幹を電気焼灼で切除しました。その後、顔面発汗は顕著に減少したことに気づき、HDSSスコアは4から1への改善を示しました。しかし、ETSの3か月後に、彼は胴体とわきの下を伴う代償性発汗を発症しました。いくつかの非外科的手法(CTガイド付き腰部交感神経嚢ブロック、プロバンサイン® (Propantheline bromide)、Ditropan®(塩化オキシブチニン)、ドライソル(塩化アルミニウム六水和物)スプレー)を試したものの、効果は得られませんでした。

ETSの約8年後に、患者はメルボルン技術によるリバーサル手術を受けました。わきの下の多汗はリバーサル手術後3カ月以内に改善しました。リバーサル手術の4年後、胴体の多汗は中程度のままであったが、顕著ではあるが許容範囲に口周辺の発汗が戻っていることに気づきました。患者のDLQIスコアはリバーサル手術前の18から15(すなわち患者の生活に対する非常に大きな影響)に改善され、QoLアンケートもリバーサル手術後4年でおよそ同じように改善しました。


討論(Discussion)

ETS後のリバーサル手術は、通常、治療法がほとんどない重度の代償性発汗を持つ患者のためのものです。クリップ法で胸部交感神経切除術を行った患者においては、その後のクリップ除去もまたリバーサル手術の一種と考えられています。1人目のケースでは、T2とT3の両方のクリップ除去を行っても(ただし右側のみ)、症状は緩和されませんでした。

リバーサル手術の基本的な目的は、いったん分断された交感神経幹を再構築することによって、代償性発汗の重症度を低下させることであり、これはまた医原性神経腫を切除することも含んでいます。重度の胸膜癒着に遭遇しない限り、基本的なアプローチは前回手術の胸腔鏡切開痕を通じて胸腔鏡で行われます。

テラランタ(Telaranta)は、ETS手術後に代償性発汗で苦しむ1人の患者に、胸腔鏡を用い、ふくらはぎの移植片を使った自家神経移植で左右両側の胸部交感神経の再建を行いました。患者の症状およびQoLは術後2.5年で改善し、vapometerという水蒸気測定器で測定した発汗パターンは正常化されたことを実証しました。ハム(Hamm)とそのチームは、両側の胸部交感神経欠損部へ肋間神経の遠心側を移植することによって、リバーサル手術を行いました。すべてのケースにおいてフィブリンシーラントは神経接合部前方へ適合されました。密集した胸膜の癒着を持った1ケースでは開胸での手術を行いましたが、それ以外はすべて胸腔鏡で行われました。19人の患者のうち9人は、平均して1.83年後に、軽度の代償性発汗症状の明確な解決を報告しました。

三浦は、後側部の開胸手術で縦隔の腫瘍を切除し、それによってできた胸部交感神経鎖にできた3cmの欠損を、肋間神経の移植および6/0ナイロンの神経縫合とフィブリン糊の補強で、再建することに成功しました。

神経移植を使った交感神経鎖の修復性を示す他の研究もあります。キム(Kim)とそのチームは、根治的前立腺摘除術の手術中、ふくらはぎの自家神経移植をすることによって左右両側の切除された海綿状の神経を再建しました。18カ月後に観察された術後結果は良好でした。ヒョチ(Hyochi)とそのチームによって行われた動物実験研究では、自家神経移植片(結腸神経)および体細胞神経移植片(陰部大腿の神経)の両方を使用することにより、下腹部神経を通じた交感神経路の有効な回復を示しました。

神経修復のために血管導管を使用するという考え方は1891年にさかのぼります。自家静脈の神経導管(AVNC)の使用は1982年まで神経移植の代替物としては認識されませんでした。当時チウ(Chiu)とそのチームは、静脈内腔(lumen of a vein)を用いることによって、近位神経束の再生をうまく促進することを証明しました。修復手術後2カ月以内に遠位端に到達しました。それ以降、神経導管の研究では、ベースラインよりも幾分遅かったものの、静脈移植片による神経再生を確認してきました。しかしながら、これは神経移植による欠損の回復と同等レベルのものでした。最初の実験は動物で行われましたが、引き続き数多くの人間での研究が行われ、AVNCで指先の神経欠損部をブリッジングした修復では即時および時間をかけての両方の回復の感覚が示されました。

表在静脈(superficial vein)移植片の採取は技術的には無制限に供給できるものであり、わずかな線状の傷跡しか残さない。さらに、静脈内腔(lumen of a vein)は、神経再生の理想的な環境を生成し、瘢痕組織に浸食されることを妨げ、神経因子の拡散を認めることができます。結果として、静脈導管は、シリコンやマクソンチューブといった合成導管よりも好ましい可能性があります。これらの素材は異物反応や軸索圧迫によって瘢痕組織化する可能性もあるからです。

AVNCを用いた神経再建の成功を制限するいくつかの要因があります。動物においても人間においても、AVNCが大口径で、複合神経で、そして3cm以上の長さ間隔でブリッジングするために使われたとき、神経再生の臨床結果は乏しいということが示されています。これは、理論的には、長距離のAVNCによって神経因子が希釈する影響によるものであり、その結果軸索成長を阻害しているということです。神経欠損が3cmよりも長い場合、腹腔内の神経移植片の方がAVNCよりも優れていることが示されました。

私たちの患者のリバーサル手術の長期結果に使用した評価ツールはDLQIとQoLアンケートでした。DLQIは、皮膚科学で行われる最初のQoLアンケートであり、フィンレー(Finlay)とカーン(Khan)によって開発されました。これは、原発性多汗症や代償性発汗を含めたさまざまな皮膚の状態のために、十分に検証された測定尺度となっています。

アミール(Amir)とそのチームによって紹介され、カンポス(Campos)とそのチームによって適用されたQoLアンケートは、しばしばETS後の患者たちを評価するのに使われています。

私たちが行った2つのケースでは、DLQIとQoLスコアの全体的な改善は、程度は異なりますが、間違いないものでした。


結論(Conclusions)

メルボルン技術を用いたこの数少ない経験は、ドナー部位の羅漢率を最小限に抑え、代償性発汗に対する安全な治療と効果を約束する選択肢であることを示しています。まだ一般的ではありませんが、この再建技術を受ける患者をもっとたくさん集め、その成功により光を与えるために、それら結果をレビューしていく必要があるでしょう。

訳:まるとん

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※このページについての私の補足コメントがこちらにあります。
→ コメント広場 Page.3 - 2017.5.21

※リバーサル手術のケースレポート
韓国で行われたリバーサル手術(19例)
オーストラリアで行われたメルボルン技術によるリバーサル手術(2例)・・・このページ
香港で行われたビデオ・アシストによるリバーサル手術(1例)

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